タイ人の「できます」はどこまでできる?日本人との感覚の違いを考えてみた

タイで仕事をしていると「同じ言葉なのに感覚が違う」と感じることがあります。
その一つが「できる」という言葉。
採用面接で「この仕事はできますか?」と聞く。
すると「できます」と返ってくる。
ところが、いざ詳しく聞いてみると、「前職で少しやったことがある」という意味だった。
あるいは、実際に仕事を任せてみると、一人で完了するにはサポートが必要だった。
こんな経験をしたことがある方もいるのではないでしょうか。
私もタイで働く中で、何度かこの違いを感じてきました。
もちろん、すべてのタイ人に当てはまる話ではありません。
日本人でも、自分の能力を高めに伝える人はいます。
ただ、「できる」という言葉が示す範囲に、日本人とタイ人で少し違いがあるのではないか。
最近、そんなことを考えるようになりました。
「できます」と聞いたのに、あれ?と思うことがある
この業界に入って間もないころ、お客様からお叱りを受けたことがあります。
「〇〇の業務ができる人というリクエストを出しているのに、実技テストをやらせたら全然できないじゃないか!ちゃんと確認してから紹介してよ!」
おかしい。
なぜなら彼は私が「〇〇の業務はできますか?」と質問した時に、自信満々に「できます!」と答えたから。
面接後、彼へ面接のフィードバックを伝える時に「〇〇はできるって言ったよね?でも全くできなかったと聞いています。どうして出来ると言ったの?」
すると彼は「できますよ。今の仕事でも担当してる。でもいつもは先輩がセッティングしてくれた設定どおりにやっているだけだから、セッティングから一人でしたことはありません。」
「なるほど。それは私の感覚では『できない』だな。」そう思ったけれど今回は私の聞き方が悪かったと反省し、彼には選考お見送りの旨だけを伝えて電話を終えました。
タイの人々の多くは、
先輩のサポートを受けながら担当していた。
業務全体ではなく、一部分だけを経験していた。
数回だけ手伝ったことがある。
このような状態でも「できる」だったりします。
そのため日本人側からすると、「できると言っていたのに」となりがち。
しかし、本人が嘘をついているわけではありません。
ここが面白いところ。
もしかすると、そもそも「できる」と判断する基準が、私たちとは違うのかもしれません。
「経験したことがあるから、できる」
そんな感覚で答えているとすれば、本人にとっては正直な回答とも考えられます。
一方で日本人側は、「一人で任せても問題なく完了できる」という意味で「できる」を捉えていることが多いように感じます。
同じ「できます」でも、頭の中で想像している状態が違う。
採用面接では、この小さな違いが意外と大きなギャップにつながります。
「やったことがある」と「一人でできる」は同じではない
では、日本人が考える「できる」とは何でしょうか。
私自身の感覚を振り返ってみると、一度経験しただけの仕事について、「できます」と言うのは少し抵抗があります。
たとえばExcelでマクロを一度だけ作ったことがあるとします。
隣に詳しい人がいて、教えてもらいながら完成させた。
この状態で面接官から、「マクロは使えますか?」と聞かれたら。
「少し触ったことがあります」や「基本的な操作なら分かります」などの回答をする人が多い気がします。
「できます」と言うのであれば、自分でマクロの組み方をある程度理解していて一から作って完成させられる。
そして、何か問題が起きても自分で調べて修正ができる。
そこまで含めて「できる」と考える。
少なくとも私は、そんな感覚を持っています。
一方、タイ人と仕事をしていると、この基準がもう少し手前にあると感じることがあります。
「前にやったことがある」
「その仕事に関わった経験がある」
「やり方を見たことがある」
こうした経験まで含めて、「できる」と表現しているケースです。
もちろん、これは国籍だけで説明できる話ではありません。
職種や会社によっても違いますし、本人の性格にも大きく左右されます。
だから私は、「タイ人は能力を大げさに言う」という話にはしたくありません。
むしろ考えたいのは、こちらが勝手に日本人の基準で、相手の「できます」を翻訳していないかということです。
「できます」の後ろにある経験値まで同じとは限りません。
この前提を知っているかどうかで、採用面接での質問も変わってくると思います。
英語の「Intermediate」にも同じギャップを感じる
この違いを特に感じやすいのが、語学力です。
タイ人のレジュメを見ていると、英語力について「Intermediate(中級)」と書かれていることがあります。
日本人が「英語は中級です」と聞くと、どのくらいのレベルを想像するでしょうか。
人によって差はあるでしょうが、日常会話ならそれほど困らない。
簡単な質問には、その場で英語で答えられる。自己紹介や経歴も英語で説明できる。
私はそのくらいを想像します。
ところが、面接で実際に英語へ切り替えてみると、簡単なやりとりにも苦労することがあります。
名前や現在の仕事については答えられる。しかし質問が少し変わると、会話が止まってしまう。
そんなケースもあります。
すると日本人側は、
「これでIntermediateなの?」
と思ってしまいます。
ただ、ここでも「盛っている」と決めつける前に、考えておきたいことがあります。
そもそも「Intermediate」はかなり曖昧
語学力には、比較的客観的な基準があります。
代表的なものが、欧州評議会によるCEFRです。
CEFRは語学力をA1からC2までの6段階に分けています。
British Councilでは、B1を「Intermediate」と位置付けています。
B1では、身近な話題について明瞭な英語の要点を理解できること。
また、英語が使われる地域を旅行した際、多くの状況に対応できることなどが目安です。
参考:
Council of Europe「CEFR Self-assessment grid」
https://www.coe.int/en/web/common-european-framework-reference-languages/table-2-cefr-3.3-common-reference-levels-self-assessment-grid
British Council「B1 Intermediate」
https://learnenglish.britishcouncil.org/english-levels/b1-intermediate
Europass「Common European Framework of Reference for Language skills」
https://europass.europa.eu/en/common-european-framework-reference-language-skills
こうした基準と比べてみると、「Intermediate」は単なる自己評価として使うには、意外と幅の広い言葉だと分かります。
レジュメにIntermediateと書いてあっても、誰かがCEFRを使って判定したとは限りません。
本人が「初心者ではない」と感じて、Intermediateを選んでいる可能性もあります。
逆に、日本人側がIntermediateという単語に、必要以上に高いレベルを期待している可能性もあるでしょう。
つまり、レジュメに書かれた一つの単語を見て、双方が違う能力を想像しているわけです。
これも「できる」のギャップとよく似ています。
「できますか?」ではなく、できる範囲を聞いてみる
では、このギャップをどう見極めればいいのでしょうか。
私が一番シンプルだと思うのは、「できますか?」という質問を減らすことです。
なぜなら、この質問では、相手自身の「できる」の基準で答えが返ってくるからです。
たとえば、「この業務を一人で担当したことはありますか?」と聞いてみる。
さらに、「どこからどこまで自分で担当しましたか?」と続ける。
「トラブルが起きたときはどうしていましたか?」
「誰かのチェックは必要でしたか?」
「最後にその仕事をしたのはいつですか?」
ここまで聞けば、「できる/できない」という二択よりも、実際の経験がかなり見えてきます。
ポイントは、自己評価を聞くのではなく、過去の行動を聞くことです。
英語も同じ。「英語はIntermediateですか?」と確認しても、レジュメに書かれた答えが返ってくるだけです。
それより面接の途中で、「では、ここから少し英語で話しましょう」と切り替えてしまったほうが早い。
実際に数分話してみれば、業務で使えるレベルかどうかはある程度見えてきます。
職種によっては、さらに具体的な確認もできます。
「英語で電話対応ができますか?」
「外国人のお客様に商品説明ができますか?」
「英文メールを自分で作成できますか?」
こうした聞き方なら、仕事との距離も分かりやすくなります。
そして可能であれば、面接の中で実際にやってもらう。
ここまでくると、「Intermediate」というラベル自体が、それほど大事ではなくなってきます。
これは語学力だけの話ではありません。
Excelでも、会計でも、営業でも、「できますか?」という質問は便利です。
でも、便利だからこそ曖昧でもあります。
「何ができるのか」
「どこまでできるのか」
「一人でできるのか」
「サポートがあればできるのか」
ここまで分解して聞いて初めて、相手の「できる」と自分の「できる」が近づいてきます。
まとめ|「できる」の基準が違うと知れば、見え方も変わる
タイで働いていると、日本では意識しなかった言葉の違いに気づきます。
「できる」も、その一つです。
「できます」と言われたから、一人で全部できると思っていた。
「Intermediate」と書いてあるから、英語で普通に会話できると思っていた。
でも、それは相手が約束した能力ではなく、こちらが頭の中で付け足した条件かもしれません。
そう考えるようになってから、私は「できます」という言葉そのものより、その中身を見る必要があると感じています。
「やったことがありますか?」
「一人で完了しましたか?」
「具体的に何を担当しましたか?」
「実際に少しやってみてもらえますか?」
一段深く聞くだけで、見えてくるものはかなり変わります。
もちろん、日本人とタイ人をきれいに二つに分けられる話ではありません。
日本人にも「できます!」と即答する人はいますし、タイ人にも慎重に自己評価する人はいます。
それでも、タイで人を採用したり、一緒に働いたりするのであれば、「できる」の根本的な基準は人によって大きく違うという前提は持っておいて損はないでしょう。
相手の「できる」を疑うのではなく、お互いの「できる」を具体的にしていく。
面接でも実際の仕事でも、そのひと手間が認識のズレを減らしてくれる。
タイで働くようになってから、私が感じるようになったことの一つです。
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タイワークラボ編集部

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