日本語通訳はオワコン?タイ人Z世代が通訳よりも選びたい仕事とは

タイの日系企業で長年重宝されてきた日本語通訳。特に製造業では、日本人とタイ人の間に立ってコミュニケーションを支える重要な存在です。
日本語が話せるというだけで、一般的なタイ人求職者よりも高い給与を得られることも珍しくありません。
ところが、人材紹介の仕事を通じて多くの日本語人材と接していると、若い世代の職業選びに少しずつ変化が生まれているように感じます。
日本語通訳の求人よりも営業事務や人事総務など、日本語を使いながら別の業務にも携われる仕事の方が反応が良いのです。
なぜ、せっかく身につけた日本語能力を活かせる通訳という仕事を選ばないのでしょうか。
そこには、給与だけでは測れないキャリアの問題と、AIの進化によって変わりつつある日本語人材の価値が関係しているのかもしれません。
日本語通訳は高給取り?実は早く訪れる給与の頭打ち
日本語が話せるだけで高い給与が得られる時代
タイで働く日本人にとって、日本語通訳は非常に身近な職種です。
工場の生産現場から社内会議、日本人駐在員とタイ人スタッフのやり取りまで、さまざまな場面で活躍しています。
特に日系製造業では、日本語ができるタイ人スタッフがいなければ、日々の業務に支障が出るという企業も少なくないでしょう。
そのため、日本語能力は就職市場において大きな武器となってきました。
一般的な新卒者と比較して、日本語能力を持つ人材は高い初任給を提示されることがあります。JLPTのN2やN1を取得していれば、実務経験が少なくても一定の給与水準を期待できるのが特徴です。
若いうちから比較的高い給与を得られるという点では、日本語通訳は魅力的な職業といえます。
しかし、問題はその先にあるのです。
5年後、10年後のキャリアが見えにくい
私が日本語通訳という職種の弱点だと感じているのは、給与の伸びしろが比較的小さいことです。
もちろん、経験を積めば通訳としての能力は向上します。専門用語への理解が深まり、日本人の話す内容を正確に伝えられるようになるでしょう。
ただし、通訳としての能力が高くなったからといって、それに比例して給与が上がり続けるわけではありません。
営業職であれば営業マネージャー、経理職であれば経理マネージャーというように、一般的な職種には経験を積んだ先のキャリアが存在します。
一方で、通訳専任のポジションには明確な昇進ルートが用意されていない企業も少なくありません。
20代では周囲より高い給与を得ていた人が、30代になる頃には専門職や管理職として経験を積んできた同世代に追い抜かれる。そんな逆転が起こり得るのです。
もちろん、高度な専門知識を持つ通訳には高い報酬が支払われることもあります。通訳としてキャリアアップを目指す人のなかには、企業を離れてフリーランスに転身する人もいるでしょう。
ただし、独立すれば安定した収入が保証されるわけではなく、案件の獲得や収入の変動といった別の課題も生まれます。
企業内通訳として働き続ける場合、5年後、10年後にどのようなキャリアを描けるのか。ここが若い日本語人材にとって、気になるポイントなのではないでしょうか。
タイ人Z世代が通訳よりも選びたい仕事とは
若い日本語人材に人気なのは営業サポートや人事総務
人材紹介の仕事をしていると、同じように日本語能力を求める求人でも、職種によって候補者の反応が異なることがあります。
私の経験では、通訳専任の求人よりも、営業サポートや人事総務などの業務を兼ねるポジションの方が、若い日本語人材から良い反応を得られることがあります。
例えば、日本人営業担当者のサポートをしながら見積書の作成や顧客対応を担当する仕事。あるいは、日本人駐在員とのコミュニケーションを担いながら、人事や総務の実務にも携わる仕事です。
いずれも日本語能力が求められますが、日本語を話すこと自体が仕事の中心ではありません。
こうした職種では、日本語を使いながら営業事務や人事、総務といった専門的な実務経験を積める点が特徴です。
もちろん、すべての若者が通訳を避けているわけではありません。通訳という仕事にやりがいを感じ、専門性を高めたいと考える人もいます。
それでも、多くの候補者と接するなかで、若い世代ほど目先の給与だけではなく、将来どのような仕事ができるようになるのかを意識しているように感じます。
日本語は職業ではなく、キャリアを広げる武器
営業サポートとして経験を積めば、将来的に営業職や営業マネージャーを目指すことができます。
人事総務であれば総務や人事の専門知識を身につけ、管理部門のマネージャーへとステップアップする道もあるでしょう。
購買や生産管理、品質管理などの業務に携われば、製造業の専門人材としてキャリアを築くことも可能です。
そして、こうした職種の大きな魅力は、日本語を使わない企業への転職も選択肢に入ることではないでしょうか。
日本語通訳としての経験は、どうしても日本語を必要とする企業で評価されやすい傾向があります。一方、営業や人事、購買などの実務経験は、日系企業以外でも活かせる可能性があるのです。
日本語能力が高いことは、もちろん強みになります。
しかし、日本語が話せるというだけでは、将来のキャリアが限定されてしまうかもしれません。
日本語を使って何ができるのか。
若いタイ人日本語人材は、そうした視点で仕事を選び始めているように感じます。
AI翻訳の進化で、日本語通訳の仕事はなくなるのか
日本語が話せるだけの価値は薄れていく?
日本語通訳の将来を考えるうえで、もう一つ無視できないのがAIの進化です。
少し前まで、日本語のメールをタイ語に翻訳したり、日本語で書かれた資料の内容を確認したりするには、日本語ができるスタッフの力を借りる必要がありました。
ところが現在は、ChatGPTをはじめとする生成AIや翻訳ツールを使えば、こうした作業の多くを短時間で処理できます。
もちろん、翻訳結果が常に正しいとは限りません。それでも、日常的なメールのやり取りや社内文書の内容を把握する程度であれば、AIで十分に対応できる場面が増えてきました。
さらに、音声認識やリアルタイム翻訳の技術も進化しています。
現時点では、複雑な商談や専門的な会議をすべてAIに任せられるわけではありません。しかし、技術の進歩によって、人間が担当する翻訳・通訳業務の範囲が変わっていく可能性は十分にあります。
そう考えると、日本語をタイ語に訳せるという能力だけで、今後も高い給与を得続けられるとは限らないでしょう。
AIには代替しにくい、現場を理解する通訳の役割
一方で、私は日本語通訳という仕事がAIによって完全になくなるとは考えていません。
例えば、製造現場で日本人技術者がタイ人スタッフに作業指示を出す場面を想像してみてください。
単純に言葉を訳すだけであれば、AIでも対応できる部分はあるでしょう。
しかし、現場の状況を理解したうえで、日本人が何を求めているのかを判断し、タイ人スタッフが正しく理解できるように伝えることは、単なる翻訳とは異なります。
日本人特有の曖昧な表現を補足したり、双方の認識にずれが生じていることに気づいたりする能力も必要です。
特に製造業では、誤った理解が品質問題や安全上のリスクにつながることもあります。
こうした場面で求められるのは、日本語能力に加えて、業務知識や現場経験やコミュニケーション能力を備えた人材です。
つまり、AIの進化によって通訳の価値がなくなるというよりも、通訳に求められる能力が変わっていくのではないでしょうか。
言葉を正確に訳せることは、これからも大切です。ただし、それだけでは他の人材との差別化が難しくなる可能性があります。
日本語通訳を採用したい日系企業も、考え方を変える時期?
通訳専任という求人が魅力的とは限らない
日系企業から人材紹介の依頼を受ける際、日本語通訳を採用したいという相談は今でもあります。
日本人駐在員が多い企業や、日本本社とのやり取りが頻繁に発生する企業にとって、日本語ができるスタッフは欠かせない存在です。
ただし、企業が日本語通訳を必要としていることと、候補者が通訳として働きたいと考えていることは、必ずしも一致しません。
企業側は、日本語が上手で、長く働いてくれる人を求めます。
一方、若い候補者は、その会社でどのような経験を積めるのか、数年後にどのような仕事を任せてもらえるのかを気にしているかもしれません。
こうした認識の違いが、採用の難しさにつながっている可能性があります。
給与を引き上げることも一つの方法ですが、それだけで解決できるとは限らないでしょう。
日本語人材のキャリアを企業がどう設計するか
私が今後の日系企業に必要だと感じるのは、日本語人材を通訳としてだけではなく、将来の専門職や管理職の候補として捉えることです。
例えば、入社当初は日本人マネージャーの通訳を中心に担当しながら、徐々に営業支援や購買、人事などの業務を覚えてもらう方法があります。
業務経験を積んだ後は、本人の適性や希望に応じて専門職へ移行することも考えられるでしょう。
もちろん、通訳業務に加えて何でも任せれば良いという話ではありません。
日本人のサポートから備品の管理、書類作成まで、あらゆる雑務を押し付けられるだけでは、専門性を身につけることは難しいものです。
大切なのは、担当業務を通じてどのようなスキルが身につき、将来的にどのような役割を担えるのかを明確にすること。
通訳として入社した人材が、数年後には自分の担当業務を持ち、さらにその先では部門を管理できるようになる。そんなキャリアを提示できれば、若い日本語人材にとって企業の魅力は大きく変わるのではないでしょうか。
日本語能力を評価することは大切ですが、日本語ができるという理由だけで、いつまでも通訳業務に固定してしまうのはもったいない話です。
まとめ|日本語通訳はオワコンではない。ただし、日本語だけでは生き残れない
日本語通訳は決してオワコンではありません。
タイの日系企業にとって、日本人とタイ人の間に立ち、円滑なコミュニケーションを支える人材は今後も必要でしょう。
ただし、若いうちから比較的高い給与を得られることと、長期的にキャリアアップできることは別の話です。
さらにAIの進化によって、言葉を訳すだけの仕事の価値は、これから変化していく可能性があります。
人材紹介の現場で若い日本語人材と接していると、彼らが求めているのは必ずしも日本語を話す仕事そのものではないように感じます。
日本語を活かしながら専門性を身につけ、将来の選択肢を広げられる仕事。
そんなキャリアを求める若者が増えているのだとすれば、日系企業も日本語人材の採用や育成について考え直す時期に来ているのかもしれません。
これから問われるのは、日本語がどれだけ上手に話せるかだけではなく、その日本語を使って何ができるのか。
日本語を話せる人材から、日本語を武器に仕事を動かせる人材へ。その変化が、これからのタイ人日本語人材のキャリアを左右するのではないでしょうか。
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タイワークラボ編集部

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