タイ人スタッフの人事評価制度|面談で気をつけたいポイントと運用のコツ

今年も残すところあと3ヶ月。この時期になると直面するのが「人事評価」です。
人事評価はボーナスや昇給の査定に必要なもので、日本でも同様に行われます。
しかし、タイ人スタッフの評価をどうつけるべきか?日本と同じ評価基準で良いのか?と悩む場面があります。
仕事ぶりには満足しているものの、どの程度の評価をつければよいのか。改善してほしい点をどこまで率直に伝えるべきなのか。
特に難しいのが、日本本社の評価制度をタイ法人でも運用しているケースです。
制度自体は整っていても、日本とタイでは上司と部下の関係性や、評価に対する受け止め方が必ずしも同じではありません。
一方で、タイ人スタッフ向けにまったく別の評価制度を作ればよい、という話でもないでしょう。
私が大切だと感じるのは、「タイ人をどう評価するか」ではなく、会社が求める基準をどこまで明確に伝えられているかという点です。
今回は、タイの日系企業で人事評価制度を運用する際のポイントと、評価面談で意識したいことを整理します。
タイ人スタッフの評価で起こりやすい認識のズレ
人事評価でトラブルになりやすいのは、評価そのものよりも「評価される側が想定していた結果」とのズレです。
たとえば、上司としては「通常通り仕事をしているので評価は3」と考えていたとします。
ところが本人は、遅刻も少なく、頼まれた仕事もこなし、前年より仕事量も増えたため「今年は4だろう」と考えているかもしれません。
この状態で結果だけを伝えれば、当然ながら不満が出やすくなります。
評価基準は事前に共有されているか
まず確認したいのは、従業員が評価基準を理解しているかどうかです。
何を、誰が、いつ評価するのか。昇給や昇格とどのようにつながるのか。
このあたりが曖昧なまま、年度末になって突然点数をつけても、納得感のある評価にはなりにくいでしょう。
日本企業では、「もう少し主体的に動いてほしい」「マネージャーだから自分で考えてほしい」といった表現もよく使われます。
しかし、「主体的に」の定義は人によって異なります。
問題を発見したら上司へ報告することなのか。改善案まで考えることなのか。自分の判断で実行するところまで求めているのか。
期待する行動を具体化しなければ、評価する側とされる側で基準が変わってしまいます。
「頑張っている」だけでは評価できない
もうひとつ避けたいのが、印象による評価です。
「あの人は頑張っている」
「彼はあまり積極的ではない」
「彼女は責任感がある」
こうした感覚は、日々一緒に働いていれば自然と生まれます。
ただし、人事評価として考えるなら、その理由を具体的な行動や成果まで落とし込む必要があります。
売上目標を達成した。ミスが前年より減った。顧客からの問い合わせに当日中に回答している。新人スタッフを3名指導した。
このように事実へ置き換えることで、評価する側も説明しやすくなります。
タイの日系企業で使いやすい人事評価制度の作り方
評価制度を整えようとすると、どうしても項目が増えがちです。
日本本社で使っている評価シートをそのままタイ語や英語に翻訳すると、かなり複雑になることもあります。
しかし、制度が細かいことと、正しく評価できることは別の話。
特にこれから評価制度を整える会社では、まず運用できる仕組みを作る方が現実的です。
評価項目は3~5カテゴリ程度から始める
評価項目として考えられるものには、次のようなものがあります。
- 業務目標、KPIの達成度
- 仕事の正確性、品質
- 報告、連絡、相談
- チームワーク
- 業務改善、主体性
- 部下の指導、育成
もちろん、職種によって見るべきポイントは変わります。
営業職なら売上や新規顧客獲得数が大きな指標になりますし、経理職なら正確性や期限管理がより重くなるでしょう。
管理職であれば、自分自身の成果だけでなく、部下の育成やチーム全体のパフォーマンスも評価対象にする必要があります。
全社員をまったく同じ項目で評価するより、共通項目と職種・役職別項目を分けた方が運用しやすくなります。
5段階評価なら「3」の意味を決める
5段階評価を採用している会社は多いと思います。
ここで意外と曖昧なのが「3」の定義です。
5=とても良い
4=良い
3=普通
2=あまり良くない
1=悪い
これだけでは、評価者によって判断が変わります。
たとえば「3=現在の職位に求められる水準を満たしている」と定義すると、基準が少し明確になります。
そのうえで4は「期待水準を継続的に上回った」、5は「期待水準を大幅に上回り、組織にも明確な成果をもたらした」など、違いを設定します。
タイ人マネージャーにも部下の評価を任せる場合、この基準合わせは特に必要です。
評価者Aはほとんど全員に4をつける。一方、評価者Bはよほど優秀でなければ3以上をつけない。
これでは同じ会社にいても、所属部署によって評価が変わってしまいます。
自己評価を取り入れる方法もある
評価面談の前に、本人にも同じ項目で自己評価をしてもらう方法があります。
目的は、本人に自分の点数を決めてもらうことではありません。
上司評価と自己評価の「差」を確認するためです。
本人は4だと思っているのに上司は2。反対に、本人は2だと思っているのに上司は4。
この差には、仕事に対する認識や会社から求められている役割への理解が表れます。
単に評価結果を通知するよりも、「なぜ自分は4だと思ったのか」「なぜ会社は3と評価したのか」を話せるため、面談の材料としても使いやすい方法です。
タイ人スタッフとの評価面談で気をつけたいこと
評価制度をどれだけ整えても、本人への伝え方が悪ければ不満は残ります。
特に注意したいのが、評価面談を「悪かったところを伝える日」にしないことです。
評価面談の時点で初めて問題点を指摘するのではなく、それまでの仕事とフィードバックを振り返る場として考えた方がよいでしょう。
悪い評価を最後に突然伝えない
たとえば年末の面談で突然、
「報告が少ないので、今年のCommunicationは2です」
と言われたらどうでしょう。
本人としては、「それなら半年前に言ってほしかった」と感じるかもしれません。
これはタイ人スタッフに限った話ではありません。
改善できる機会を与えず、年度末に低い点数だけをつける仕組みには問題があります。
そのため、年1回の正式な評価とは別に、途中でフィードバックする機会を設けたいところです。
毎月の1on1まで制度化するのが難しければ、3カ月や半年ごとの中間レビューでも構いません。
目標に対して現在どの位置にいるのか。何ができていて、何を改善すれば評価につながるのか。
途中で確認するだけでも、最終評価の納得感は変わります。
人格ではなく行動を伝える
改善点を伝える際は、本人の性格や人格を評価する表現を避けます。
たとえば、「あなたは責任感が足りない」と言われても、本人は何を直せばよいのかわかりません。
それよりも、「先月の案件では、納期に遅れる可能性が分かった時点で上司への報告がありませんでした。今後は遅延の可能性が分かった段階で報告してください」と伝える方が具体的です。
評価面談では「何が悪かったか」だけで終わらず、「次回はどうすれば評価が上がるのか」まで示すこと。
次の行動が分かれば、評価は単なる査定ではなく、育成にもつながります。
評価と昇給の関係を整理しておく
タイで評価面談を行う際、もうひとつ整理しておきたいのが給与との関係です。
従業員からすると、評価結果と昇給はセットで考えやすいもの。
しかし実際の昇給額は、個人評価だけで決まるとは限りません。
会社業績、給与レンジ、市場相場、役職、最低賃金の変更など、複数の要素が関係する場合があります。
そのため、Performance EvaluationとSalary Reviewをどのように連動させるのか、会社側でルールを整理しておく必要があります。
ここが曖昧だと、「評価4なのに、なぜこれしか給与が上がらないのか」という別の不満につながります。
評価面談と給与改定面談を別々に実施する方法もあります。
どの方法を選ぶにしても、会社として一貫した説明ができる状態にしておきたいところです。
評価制度は「作ること」より「運用できること」を優先する
人事評価制度を作ると、最初はきれいに完成します。
問題は、その制度を2年目、3年目も同じ基準で運用できるかどうかです。
特にタイ現地法人では、日本人駐在員の交代やタイ人マネージャーの昇格によって、評価する側のメンバーが変わることもあります。
誰が評価者になっても、一定の基準で運用できる仕組みが必要です。
正式評価と簡単な面談を組み合わせる
最初から複雑な制度を作る必要はありません。
たとえば、
目標設定
↓
中間面談
↓
最終評価
↓
翌年度の目標設定
この流れだけでも、評価制度としての基本的なサイクルは作れます。
さらに必要であれば、月次や四半期ごとの1on1を追加します。
大切なのは面談の回数ではなく、目標設定から最終評価までがつながっていることです。
日本人だけで評価を決めない仕組みへ
タイ人マネージャーが育ってきた会社では、評価プロセスにも参加してもらう方がよいでしょう。
日本人上司がすべてのタイ人スタッフを評価する仕組みでは、日常の仕事ぶりを十分に把握できないケースがあります。
一方で、タイ人マネージャーへ評価を丸投げするだけでも基準がばらつきます。
そこで使えるのが、最終評価を確定する前のすり合わせです。
各マネージャーがつけた評価を持ち寄り、「この部署の4と、別部署の4は同じ水準なのか」を確認します。
人事ではCalibrationと呼ばれる方法です。
評価者同士で基準を合わせることで、部署や上司による評価の偏りを減らせます。
評価結果から制度そのものを見直す
評価制度は、一度作ったら完成ではありません。
たとえば全社員の評価が4以上になっているなら、基準が甘すぎる可能性があります。
部署によって平均点が大きく違うなら、評価者ごとの基準に差があるかもしれません。
評価シートでは3だったのに、最終的には社長やMDの判断でほぼ全員の点数が変更されている。
これも制度を見直すサインです。
評価結果そのものだけでなく、「この制度で本当に社員の成果や成長を捉えられているか」を毎年確認する。
タイ法人の規模や組織の成熟度に合わせて、少しずつ制度を改善していく方が現実的だと思います。
まとめ|タイ人スタッフの評価は「基準」と「対話」をセットに
タイ人スタッフの人事評価を考える際、「タイ人にはどんな評価方法が合うのか」と考えてしまいがちです。
しかし、私は国籍よりも先に、会社側の評価基準が明確になっているかを確認する方がよいと思います。
何を期待されているのか。
現在どこまでできているのか。
次に何ができれば評価が上がるのか。
この3つを従業員自身が理解できていれば、評価面談は単なる点数発表の場ではなくなります。
また、日本人管理職側も「もっと頑張ってほしい」「もう少し主体性がほしい」といった感覚的な評価から離れやすくなるでしょう。
人事評価制度の目的は、従業員に1から5までの点数をつけることではありません。
会社が求める方向と、従業員が目指す方向を合わせるための仕組み。
特に日本人とタイ人が一緒に働く環境では、「言わなくても分かるだろう」に頼らず、期待する行動を具体的に伝えることが欠かせません。
最初から完璧な評価制度を作る必要もないでしょう。
まずはシンプルな基準を作り、面談を行い、結果を見ながら改善する。
その積み重ねが、タイの現場で本当に使える評価制度につながっていくのだと思います。
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タイワークラボ編集部

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