タイのシックリーブ│現場でできる抑制策と法的な注意点

タイで働く方なら、シックリーブという言葉を一度は耳にしたことがあるでしょう。
「マイサーバイ休暇」と呼ばれることもあり、管理者や経営層としては頭を抱える制度でもあります。
今回は年30日あるタイのシックリーブ(傷病休暇)の内容を整理したうえで、現場で活用できる抑制策について解説していきます。
【年30日有給】タイ労働法で見るシックリーブ(傷病休暇)制度とは
タイ労働者保護法が定める傷病休暇の日数
タイの労働者保護法では、第57条1項で傷病休暇に関する規定が置かれています。
これは病気や怪我の場合の休暇は年30日間は有給として処理され、賃金が支給されるというものです。
そもそもは入院などで長期休暇が必要な際に取得できるものとして、労働者を守るために制定されたものですが、取得のハードルの低さから「マイサバーイ休暇」と呼ばれることも。
労働者保護法ではこの傷病休暇(シックリーブ)の他に、年3日の用事休暇(ビジネスリーブ)や、年6日以上の有給休暇(アニュアルリーブ)を雇用主はすべての従業員を対象に支給することが義務付けられています。
「マイサバーイ休暇」と呼ばれる背景
前項でも触れましたが、タイの傷病休暇は、取得のハードルの低さから、この制度をやや皮肉交じりに「マイサバーイ休暇」と呼ぶことがあります。
タイ語で「マイサバイ」とは、体調不良を意味する言葉。少し調子が悪い場合でも「マイサバーイです」と言って休暇を取得できることから、このように称されることがあるのです。
労働法の中には傷病休暇が取得できる条件とする「病気」の明確な定義がありません。そのため、本人が病気だと申告すれば基本的に休暇を認める必要があるのです。
この曖昧さが、後述する不正利用の温床になっている面は否めません。
拒否・解雇ができない理由
シックリーブは法定の権利であるため、会社側が一方的に拒否することはできません。
過剰な取得を理由にした解雇や減給といった不利益な扱いも、原則として違法とされています。
この前提を正しく理解した上で、現実的な対策を考えていく必要があるでしょう。
シックリーブ管理における現場の課題
金曜・月曜に集中する取得パターン
現場でよく聞かれる悩みが、休暇が特定の曜日に偏るという問題です。
金曜や月曜に取得が集中すると、どうしても連休化を疑わざるを得ません。そして、月曜に関しては「二日酔いでは?」と疑ってしまうなどのシチュエーションを、タイで働く管理者なら誰しもが経験したことがあるでしょう。
また、平日に傷病休暇を取得し、その代わりに残業(休日出勤)として処理される土曜に働くという、ちょっと賢いかも?と思うような休暇の取得をしているパターンもあります。
連続休暇と有給消化の境界
年次有給休暇とシックリーブは、法律上まったく別の制度です。
年次有給休暇は取得理由を問えません。一方、傷病休暇は取得理由を制限できる点が大きな違いです。
また未消化分の扱いも異なります。
年次有給休暇には原則買取り義務(会社によっては繰り越し)がありますが、シックリーブにその義務はありません。
この違いを従業員へ周知し、シックリーブ取得の際に細かく理由をヒアリングすることは抑止力のひとつになり得る可能性があります。
日系企業の管理職が抱える悩み
日本の職場感覚では、体調不良での休みは事前申告や引き継ぎが前提になることが多いはずです。
一方タイでは、当日連絡(しかもLINEなど)でのシックリーブ取得も法律上は問題とされません。
タイの病気休暇制度は仮病で悪用されやすく、日本人経営者にとって悩みの種の一つになっています。
感情的に注意すると、かえって労使トラブルに発展しかねません。
冷静に制度を理解した上での対応が求められます。
次の章で、シックリーブの抑止策として現場で取り入れらていることの一部をご紹介していきます。
シックリーブ抑制策と法的な線引き
3日以上の連続取得と診断書提出ルール
法律上、会社が診断書の提出を求められるのは、連続3日以上休む場合に限られます。
そのため、1日、2日程度の短期間の欠勤では、診断書がないことを理由に休暇申請を拒否することはできません。
会社によってはシックリーブ抑制策として、1日のみの休暇取得でも診断書が必要というルールを就業規則に記載している場合があります。しかし、これは労働法の定めとは異なりますので、労使トラブルに発展した場合に雇用主側が不利になる可能性が高いです。
タイ人人事に言われるがまま、この線引きを誤解している管理職も少なくありません。まずは正確に理解しておくことが大切です。
皆勤手当・人事評価への反映
実務上よく使われる対策として、皆勤手当の導入が挙げられます。
休まないことに対するインセンティブを付与する制度は、仮病による悪用への対策として考えられる手法の一つです。
また、勤続期間が長くなればなるほど、手当が増えるような階段式にしている企業も少なくありません。
人事評価にシックリーブの取得日数を反映させる会社もありますが、この運用には注意が必要です。
評価基準として明確に規定し、恣意的な運用にならないようにして注意しましょう。
不利益取扱いに該当するライン
皆勤手当や評価制度そのものは、違法ではありません。しかし、実質的にシックリーブの取得を妨げる水準まで踏み込むと話は別です。
取得したことへの直接的な罰則(罰金や減給など)や、正当な取得に対する懲戒処分は、不利益取扱いとみなされる可能性があります。
一方で、診断書を添付して復職した従業員であっても、不正取得を疑う相当な理由があれば対応は可能です。
会社が指名する別の医師の診察を命じることも、法律上認められています。
抑制策は、あくまでこの範囲内で設計する必要があることを覚えておきましょう。
運用面で心配がある場合は、法律事務所や顧問弁護士に相談することをお勧めします。
適正なシックリーブ管理の具体策
就業規則への診断書ルールの明文化
虚偽申請が判明した場合の処分内容は、就業規則に具体的に規定しておきましょう。この明文化が、不正利用の抑止につながります。
曖昧な規定のままだと、いざという時に処分の根拠として使えません。
診断書や休暇届の提出期限や様式についても、あらかじめ明記しておくと運用がスムーズになるはずです。
社内規程として周知しておけば、従業員側の理解も自然と深まっていくでしょう。
取得パターンの可視化と早期面談
勤怠データを月次で確認し、特定の曜日や特定の従業員に偏りがないか把握しましょう。
異常なパターンが見えた段階で、責める姿勢ではなく状況確認として面談を設定するのが有効です。
表向きは体調面の心配というスタンスで「あなたのシックリーブ取得パターンに気づいていますよ」と本人へアピールするだけでも、頻繁な取得を抑止することにつながるでしょう。
また、早期に対話の機会を持つことで、深刻なトラブルに発展する前に対応できるようになります。
相談窓口の設置
シックリーブの多用は、体調面だけでなく職場環境への不満が背景にあるケースも見受けられます。
職場に不満がありストレスが溜まっている人は「今日は仕事に行くのが憂鬱だな。なんだかお腹が痛くなってきた気がする。」なんてことをきっかけにシックリーブを利用することがあります。
そのため、風通しの良い職場環境(小さな不満や悩みを拾いやすい環境)を心がけることも、シックリーブの抑止につながるでしょう。
従業員との関係構築、匿名で相談できる窓口に設置、定期的な1on1での面談などを設け、根本原因の把握につとめることも、管理者のy区割りです。
まとめ
本記事ではタイの労働者保護法におけるシックリーブの定義や内容、抑止するためのポイントなどを整理して解説しました。
日本的な感覚だと「ちょっと体調が悪いくらいで仕事は休めない」という感覚の人が圧倒的に多いでしょう。そのため、タイ人スタッフにもその感覚で仕事をしてほしいと思ってしまうのは当然のことだと思います。
しかし、ここはタイ。日本的な「気合と根性で働く美学」を押し付けるのはナンセンスです。
今回ご紹介した抑止策を参考にしつつ、タイ人スタッフがシックリーブを取りたいと思わないような職場環境づくりやチームの関係構築などを進めていくのもまた、管理者としての重要な役割ではないでしょうか。
そして、誰かが休んでも仕事が止まらないチーム作りをすることも大切です。
参考資料・参考サイト
・タイの労働法制と実務 vol.3 休日に関する基本ルールと設計上の留意点
・【タイ労務】タイの休日・休暇制度|ルールや注意点を詳しく解説
併せて読みたい
▶タイの有給休暇・休日制度の基本と実務対応|法律と会社運用の実態
▶タイの働き方とは?日本とは違うタイの職場文化あるある10選
▶タイで管理職|チームマネジメントで押さえておきたい5つの「ない」
タイワークラボ編集部

在タイ日系人材会社で働く日本人が、「タイで働く」「タイで暮らす」日本人のためのリアルな情報を、現地からお届けしています。
人材業界での実務経験や在住者の視点を活かし、キャリア・制度・くらしなど幅広いカテゴリをカバー。今タイで働いている人だけでなく、将来的にタイでの就職・移住などを考えている方にとってもヒントになるような記事を目指して、日々コンテンツを発信中です。

