遅刻で罰金はアウト?タイ労働者保護法における減給・懲戒のルールを解説

遅刻で罰金はアウト?タイ労働者保護法における減給・懲戒のルールを解説

タイで働いていると、遅刻や欠勤に対して「罰金」や「減給」が科されているケースを目にすることがあります。

「日本でもやってることだし、タイでも普通にあるんじゃないの?」と思う方もいるかもしれません。

しかし、タイの労働者保護法には給与の控除に関して制限が設けられています。そのため、日本の感覚でそのまま運用すると、法令違反になるリスクも。

本記事では、タイの懲戒ルールの基本的な仕組みから、よくある違反事例、そして従業員側として知っておくべき対処法まで、実務の視点でまとめていきます。

タイ労働者保護法(労働法)と懲戒処分の基本的な考え方

まず前提として、タイ労働法では懲戒処分の種類や手続きを網羅的に定めた条文が存在しません。

日本の労働基準法のように「懲戒の種類はこれこれに限る」「手続きはこうしなさい」という細かい規定がないのです。

その代わり、第108条によって、従業員が10人以上になった企業には就業規則の作成と周知が義務付けられています。
就業規則に盛り込むべき記載事項の一つに「規律および懲戒処分」があり、実務上は各社がここで懲戒の種類・事由・手続きを定める形となっているのです。

タイの実務でよく見られる懲戒処分の種類は、以下の通り。

  • 口頭または書面による警告
  • 停職(無給停止)
  • 普通解雇(解雇予告・解雇補償金あり)
  • 懲戒解雇(解雇補償金なしの即時解雇)

この中に「罰金」や「減給」は含まれていません。

そもそも、タイの懲戒制度には金銭的なペナルティが入る余地が非常に限られているのです。

遅刻・欠勤を理由とした「減給」は認められるのか

結論から言うと、懲戒処分としての減給はタイ労働法に違反する可能性があります。

第76条は、雇用主が給与から控除できるものを限定的に列挙しており、それ以外の控除を認めない立場をとっています。
同条で認められている控除の代表例は以下の2つ。

  • 社会保険料(Social Security)
  • 所得税(Income Tax)

その他、法令上の義務に基づくものです。

このリストには「懲戒による減給」は含まれていません。
そのため、遅刻や無断欠勤を理由に給与を減額することは、労働法に違反する可能性があるとされています。

実務上も、就業規則に「減給」を懲戒処分として明記している企業が存在するのは事実です。
ただし、専門家の間では「この規定は労働法に抵触するリスクがある」という見解が主流となっています。

よくある誤解として、「遅刻した分の給与を引くのは当然では?」と感じる方もいるかもしれません。

ここで区別が必要なのは、「労働をしなかった時間分の給与を支払わない」のと「罰として給与を差し引く」は、法的な意味合いがまったく異なるという点です。

前者は労務不提供に対する対応であり、タイ労働法の禁止する「控除」とは性質が違います。

後者、つまり懲戒目的での上乗せ控除が問題になります。

まとめると、以下のように整理できます。

対応法的な扱い
遅刻した時間分の給与を支払わない法令違反の可能性は低い
遅刻への罰として追加で給与を差し引くタイ労働者保護法 第76条違反のリスクあり
「罰金」として金銭を徴収する同上

懲戒処分を有効にするために必要な「就業規則」の条件

前述の通り、タイでは各社の就業規則が懲戒処分の根拠になります。そのため、就業規則の整備状況が、処分の有効性を大きく左右します。

就業規則はタイ語で作成・掲示が必要

タイ労働法では、就業規則はタイ語で作成し、職場内に常時掲示することが義務付けられています。

英語や日本語のみの就業規則は、法的に有効とは言えません。

外国人従業員向けに、英語や日本語の翻訳を用意することは問題ありませんが、タイ語版が原本となります。

なお、就業規則の作成・掲示義務を怠った場合、企業側は罰金が科せられる可能性があるので注意が必要です。

懲戒解雇には書面による警告(Warning Letter)が原則必要

日常業務でよく関わるのが、「書面による警告(Warning Letter)」の手続きです。

タイ労働法第119条第4号によると、従業員が就業規則に違反した場合に懲戒解雇できるのは、「雇用主が書面で警告を行ったにもかかわらず、1年以内に同じ違反を繰り返した場合」が原則です。警告書の有効期間は発行日から1年間とされています。

つまり、一度の遅刻や欠勤で即座に懲戒解雇することは、通常できません。まず書面で警告を出し、1年以内に同様の違反が繰り返された場合に、ようやく懲戒解雇の要件を満たす形になります。

警告書なしで即時解雇できるケース

ただし、以下のような重大な違反については、書面警告なしでの即時解雇が認められています。

  • 雇用主に対して不正行為または故意の刑事犯罪を犯した場合
  • 故意に雇用主に損害を与えた場合
  • 過失により雇用主に重大な損害を与えた場合
  • 正当な理由なく連続3日間(間に休日を挟む場合も含む)職務を放棄(無断欠勤)した場合
  • 最終判決で懲役刑を科された場合

遅刻や軽微な欠勤は、通常これらには該当しません。重大性の判断は状況によって異なるため、悩んだときは専門家に確認することをおすすめします。

よくある違反事例|これはやってはいけない

日系企業を含む現地の職場で、実際に起きやすいトラブルをいくつか見ていきましょう。

① 就業規則に記載のない罰則を適用する

「うちの会社では遅刻3回で〇〇バーツの罰金」というルールが、就業規則に明記されていないまま口頭で運用されているケースがあります。就業規則に記載のない懲戒は、法的根拠を持ちません。

② 罰金名目で給与から一方的に差し引く

タイ労働法第76条で認められていない控除は、理由を問わず違法となる可能性があります。

「本人が同意しているから大丈夫」という感覚も通用しないこともあるので注意が必要です。

タイの裁判所では労働者に有利な判断が下される傾向があります。

③ 書面警告なしに懲戒解雇を行う

「何度も注意したのに改善しないから解雇した」というケースでも、書面での警告記録がなければ、懲戒解雇の要件を満たさないと判断される可能性があります。

口頭での注意は証拠として弱く、労働裁判になった場合に不利な状況になりかねません。

④ 「遅刻3回で自動解雇」などを口頭で運用する

上記と同様、就業規則に記載されておらず、書面警告のプロセスも経ていない場合は、懲戒解雇の要件を満たしません。

なお、タイの労働裁判所は、労働者が口頭で・無料で・休日でも訴訟を提起できる仕組みになっています。

訴訟へのハードルが低い分、会社側は適切な手続きを踏んでいないと、思わぬリスクを抱えることになるでしょう。

従業員側として知っておくべき対応と相談先

企業側人事担当だけでなく、一般の従業員として働く方にとっても、このルールを知っておくことは大切です。

「給与から何か引かれているけど、どういう名目なのかわからない」「遅刻したら罰金を取られた」という経験がある場合、それが法令違反に当たる可能性があります。

不当な控除を受けた場合の対処

まず、給与明細や雇用契約書・就業規則の内容を確認することが出発点です。

控除の名目が何か、それが就業規則や法令に基づくものかを確認しましょう。

疑問がある場合は、以下の機関に相談することができます。

  • 労働保護福祉局(Department of Labour Protection and Welfare) バンコク以外も含め、各地に窓口があります。タイ語での対応が基本ですが、相談・申告は無料で行えます。
  • 労働裁判所(Labour Court) タイでは労働者は口頭で、無料で訴訟を提起することが可能です。

日本人の場合、タイ語でのやり取りが必要になる場面が多いため、日系の労務専門家や弁護士事務所に最初に相談するのが現実的。

バンコクには日本語対応可能な労務コンサルタントも複数存在しており、状況を整理した上で適切な対応策を一緒に考えてもらえます。

まとめ

タイの懲戒ルールを整理すると、以下のポイントが骨格になります。

  • 懲戒処分としての「罰金」「減給」は、タイ労働者保護法第76条に違反する可能性があり、原則として認められない
  • 懲戒の根拠は就業規則にあり、就業規則の整備・掲示が大前提となる
  • 懲戒解雇には、原則として書面による警告と1年以内の再違反という要件が必要
  • タイの労働裁判所は労働者寄りの判断をする傾向があり、会社側は手続きの不備が大きなリスクになる

日本での「遅刻したら罰金」「問題があれば減給」という感覚で職場のルールを運用していると、気づかないうちにタイの法律と衝突することがあります。

人事・労務の担当者であれば就業規則の内容を今一度見直す機会に、一般社員として働く方であれば自分の権利を知る機会として、この記事を活かしてもらえたら嬉しいです。

なお、タイの労働法は定期的に改正されています。

実際の対応が必要な場合は、最新の法令と現地の専門家への確認をあわせて行うことを強くおすすめします。

参考資料・参考サイト

タイワークラボ編集部

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