タイの解雇・退職時に知っておきたい退職金と制度の基本

タイで働く人にとって、労働法の理解は不可欠です。
特に、解雇や退職といった雇用契約の終了に関わる場面では、制度の理解が浅いが故のトラブルが起こりがち。
この記事では従業員の解雇や退職に伴う退職金(解雇保証金)やその他の制度の基本的なルールや算出方法をわかりやすく解説します。
企業の総務人事担当者はもちろんのこと、タイで働く人は自分の権利を守る意味でも理解しておきましょう。
この記事の目次
タイにおける退職金(解雇保証金)制度の基本
まずは退職金(解雇保証金)制度の基本についてです。
この項目では「退職金が発生する条件と例外」、「退職金の計算方法」、その他に発生する可能性がある「退職一時金」について解説していきます。
退職金(解雇保証金)が発生する条件と例外
タイの労働者保護法では、労働者が解雇された場合、原則として企業は勤続年数に応じた退職金(解雇保証金)を支払う義務があります。
これは全ての退職者が対象となる訳ではなく、あくまで労働者の責めに帰すべき事由によらない解雇に対する生活保障措置です。
解雇・退職時のシチュエーションごとに退職金支払い義務の有無について以下にまとめました。
| 解雇/退職理由 | 退職金の支払い義務 |
|---|---|
| 会社都合(人員整理・事業閉鎖など)による解雇 | 有り |
| 対象者の不正行為による懲戒解雇 | 無し |
| 自己都合(転職・家庭の事情など)による退職 | 無し |
| 事業所移転などに伴う自己都合退職(通勤不可など) | 有り |
| 契約期間満了による退職(契約終了) | 契約内容による |
| 定年退職 | 有り |
上記のように、労働者が不正行為(例:故意の犯罪行為、度重なる就業規則違反、3日を超える無断欠勤など)を犯したことによる懲戒解雇の場合や、自己都合での退職の場合は企業は退職金の支払い義務を免除されます。
自己都合退職扱いでも退職金が発生するケースあり
事業所移転や人事異動による就業場所の変更、給与/手当の減額などによる自主退職は、例外的に退職金が発生します。
これは、労働者自身が不利益を被ることを会社が強いているためです。つまりこれは自主退職ですが会社都合による退職に値します。
あまり多いケースではないですが、覚えておきましょう。
尚、有期雇用契約が満了した場合も状況によっては退職金が発生するケースがあります。これは法の専門家でも意見が分かれるポイントですので後述します。
定年退職時の退職金支払い
上の表では定年退職時の退職金支払いについても記載していますが、定年後に再雇用する場合でも定年時には退職金を支払う必要があることを知っておきましょう。
定年後の再雇用は1年更新の契約社員が基本。契約更新のたびに法令に基づいた退職金を本人に支払うのが一般的です。
有期契約社員への退職金(解雇保証金)支払い義務について
タイの労働者保護法では、雇用形態に関わらず勤続期間に応じて退職金の支払い義務が発生するような記述があります(というか正社員と契約社員で区別されていません)。
しかし、有期契約の社員に対しては、以下のような作業に従事する人で、契約更新をしない人に対しては支払いの義務はありません。
- 季節性の高い業務に従事する人
- 雇用主の主要業務とは異なるプロジェクトに従事する人
加えて、契約更新の可能性が全くない人(試用期間の設定は不可。一度でも契約を更新すると対象から外れる。)に対して、企業が退職金を支払う義務はありません。
上記のように、有期契約社員で退職金の支払い義務が麺s序されるケースはかなり限定的。基本的には120日以上雇用するスタッフへは退職金の支払いは発生すると思っておいた方が無難です。
一方で、実運用の面では上記のような限定的な条件でない場合でも、契約社員が契約期間を満了した際に契約終了とした場合は退職金の支払いは無いと、広い解釈で捉えられている印象があります。
勤続期間に応じた退職金(解雇保証金)の算定基準
退職金の算定基準は、労働者の勤続期間によって厳格に定められています。
勤続年数に応じた退職金の算定基準は下記の通り。
| 勤続期間 | 退職金(解雇保証金)の額 |
| 120日未満 | なし |
| 120日以上1年未満 | 最終賃金の30日分 |
| 1年以上3年未満 | 最終賃金の90日分 |
| 3年以上6年未満 | 最終賃金の180日分 |
| 6年以上10年未満 | 最終賃金の240日分 |
| 10年以上20年未満 | 最終賃金の300日分 |
| 20年以上 | 最終賃金の400日分 |
ここで言う「最終賃金」についてですが、その定義は法律に明記されていません。
しかし、月額固定で支払うものを指すのが一般的です。
例えば労働者への給与として、基本給・交通費(月1,000バーツ)・食事手当(日30バーツ)・インセンティブ(成績に応じて変動)を支払っているとします。
この場合は、毎月の金額に変動がない基本給と交通費が「最終賃金」の対象となり、勤務日数や成績によって変動する食事手当とインセンティブは「最終賃金」の対象外です。
この定義は法に明記されていないため、経験豊富なタイ人HRでもその定義が曖昧だったり誤っていたりすることがあります。HR担当の算出基準も確認し、認識の齟齬を予めなくしておきましょう。
予告なし解雇時の「解雇予告手当(退職一時金)」について
企業が従業員へ解雇を通知する際、遅くとも1給料日前に通知する義務があります。
事前予告を行わずに即日解雇する場合、企業は「解雇予告手当(退職一時金)」を従業員へ支払わなければなりません。
この手当は解雇される従業員が本来受け取るはずだった金額に相当し、即時解雇の対価として支払われます。
退職金(解雇保証金)とは別の支払いで、退職金が発生しない懲戒解雇の場合であっても予告期間が守られていなければこの手当は原則発生します(例外規定あり)。
その他の重要な保証金と関連制度
年次有給休暇の買取りと未消化分の扱い
労働者が退職・解雇される時点で未消化の年次有給休暇が残っている場合、企業はその未消化日数に相当する賃金を労働者に支払う義務があります。
これは単なる企業の善意ではなく、労働者の権利として法的に義務付けられています。
もちろん、本人が希望する場合は残った有給を使用させてあげることも可能。解雇/退職が決まったらまずは労働者の正確な有給休暇残日数を確認し、消化か買取りのどちらを希望するか本人へ確認する必要があります。
企業がこの義務を怠ると、後からトラブルに発展する可能性も。未消化有給休暇の清算は退職時の重要な手続きの一つです。
プロビデントファンドと社会保障制度
退職時に企業が取り扱うべき重要な制度として、プロビデントファンド(退職金積立基金)と社会保障制度があります。
これらは企業側が退職金などと一緒に支払うものでは無いのですが、受け取り方法や申請方法などを説明する義務があるので、覚えておきましょう。
プロビデントファンドは任意加入の企業年金制度。加入している場合は企業と労働者が積み立てた掛金と運用益が、定年時(60歳)に労働者に支払われます。
また、労働者が解雇・失業した場合、タイの社会保険から失業給付金を受け取ることが出来ます。必要書類や申請期間が細かく決められているので、労働者が退職後にすぐ社会保険へ申請ができるよう準備・説明するのは、企業側ができる最後のサポートのひとつです。
不当解雇時の紛争解決と労働裁判所の役割
企業が労働者を解雇する際に正当な理由や適切な手続きを欠いた場合、労働者から「不当解雇」として訴えられるリスクがあります。
不当解雇と判断された場合、企業は労働者に対し損害賠償を命じられる可能性があり、これは解雇保証金より高くなる可能性も持ち合わせています。何より厄介なのは裁判となった場合に長い期間対応を強いられる事です。
労働者と企業の間で紛争が生じた場合、労働裁判所(Labor Court)がその解決を担います。
労働裁判所は労働者保護の観点から判断を下す傾向が強いです。そのため、企業は法的な専門知識を持って対応することが求められます。
解雇の際は、客観的な証拠と適正な手続きに基づいていることを確認し、リスクを最小限に抑えるための慎重な対応が必要です。
まとめ
タイにおける解雇・退職時の保証金と制度は、労働者保護の観点から細かく定められています。
特に勤続期間に応じた退職金(解雇保証金)の支払いは企業の義務であり、そのルールを正確に理解しておくことが労使間の信頼関係維持と法令順守の基本です。
この知識は、予期せぬコスト発生リスクを回避し、円滑な雇用終了プロセスを確立するために不可欠。適切な対応は、企業イメージの向上にも繋がります。
本記事で解説した基本を押さえ、タイでのビジネスを成功させるための一助としてください。
※本記事の解説はタイ労働者保護法の内容をベースに、筆者自身の経験則を加えて構成されています。自社で運用される際は必ず顧問弁護士などへ確認の上でおこなってください。
タイワークラボ編集部

在タイ日系人材会社で働く日本人が、「タイで働く」「タイで暮らす」日本人のためのリアルな情報を、現地からお届けしています。
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